狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

日生劇場 ってどんなところ? 《ホール音響Navi》

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古典的で重厚な外観に反しジョアン・ミロやアントニ・ガウディなどの南欧カタルーニャ芸術を彷彿とさせる明るい色彩と曲面を多用したホール内装で対抗する平行面を徹底的に封じ込めるなど、スタンスは違うが 「打ち放しコンクリート造形」で数多くの佳作を手がけた現代の日本の鬼才新居千秋氏の3連作(※1)に通ずる面も見られ興味深い。

※1、2011年10月竣工1112人収容/由利本荘市文化交流館・カダーレ(※ホールNaviはこちら)、2013年3月竣工462席東京都八丈町多目的ホール「おじゃれ」(※ホールNaviはこちら)、2013年5月竣工496席新潟市秋葉区文化会館(※ホールNaviはこちら)、

序幕 日生劇場

Official Website http://www.nissaytheatre.or.jp/

古典的で重厚な外観とアバンギャルドな内装

近代建築界の重鎮だった故・村野 藤吾先生の作品。

東京都千代田区の日本生命日比谷ビルの中にある劇場。

日本生命保険相互会社が創業 70周年を迎えたのを記念して1963年9月に竣工した。

2006年には、日本生命日比谷ビルと合わせてDOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築に選ばれている

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

(公式施設ガイドはこちら。)

フロアー構成

なだらかなスロープを持つメインフロアーと中二階に相当するサイドまで回り込んだテラス席と同じく両翼が前方に伸びた3階バルコニーをもつ3層構造のプロセニアム形式ホール。

第1幕 日生劇場の音響

1959年7月7日着工(設計)当時としては異例の最新技術「スケールモデルによる音響実験」

東京文化会館(※ホールガイド記事はこちら)同様に、建築音響設計聡明期に最先端の「1/30のスケールモデル音響実験」でデティールを決定されていたとは知らなかった...。

一見アバンギャルドな内装デザインであるが「壺を押さえたデザイン」で「勘も経験も無い」のに無謀なデザインのホールを造りたがる当世の「ヘボ・デザイナー」の作品とは一線を画している。

当時の商業ホールの限界

コンセプトには含まれていなかった伝統芸能

後述するように「オペラおよび演劇(歌舞伎を除く)に使用するというのであったが...」とおっしゃっているが、大きく下層部ホワイエ部分(後部)に張り出し上層バルコニーのオーバーラップを最小に押さえたモダン芝居小屋仕様の客席配置でも有り、現時点では仮設本花道、や歌舞伎用プロセニアム様吊り物も用意されており、大歌舞伎公演も行われている。

「(劇場は)わが国では多くの場合多目的に使用されるようである<中略>...建築的には、殊に音響的には非常に困難で、成功する場合は少ないようである。」と先生ご自身もおっしゃっているとおり、この辺り(デザイン)が当時の「多目的商業ホールデザイン」の限界であったのかもしれない?

総評

村野先生ご自身が総評をなさっているので、おこがましい限りではあるが...。

メインフロアー

メインフロアーは「日本伝統の芝居小屋スタイル」で奥行き(推定約18.5m)より横幅(推定約24m)が広い平面デザインになっている。

最大幅部分はk列付近で推定約24mあり一部完全平行部分もあるが「幅20m超」のセオリー(※3)は守られており、実障害(※4)を伴うような定在波(※5)は生じていない...ハズ?

また最前部オーケストラピットにもなる平土間部分XA~XC列の上部には上部プロセニアム前縁は大型(ホールシーリング?)の打ち放しコンクリート反響板となっており、4列目から続く前半の平土間に近い緩やかなスロープ部分上空にも奥まった照明ガラリを持つ全体がラウンドしたスラントした凸型反響板がスラント設置されておりホール上下(床→天井)間の定在波も対策されている。

※3、関連記事『ホール幅20m超のセオリー』「音の良いホールの条件とは」はこちら。

※4、定在波障害の実被害については『ホールに潜む ミステリー ゾーン (スポット)とは?』をご参照ください。

参※5)当サイト関連記事 定在波とは こちら。

当時は問題にならなかった壁際席?

オーバーラップの無い2・3階バルコニー部

2・3階バルコニーは階下のホワイエに大きくせり出したデザインで、1階メインフロアーへの被さりが殆どないデザインとなっている。

この辺が下世話な?「ショー・レビュー専用劇場」とは異なっているところ。

但し先生の意向とクライアントの要求の板挟みで、2階バルコニーテラス席の背後は出入り口付近を除きことごとく「壁面と接している」

異常に低い天井の部分

但し馬蹄形のトラディッショナルなオペラハウスではよく見かけるが?、2・3階階バルコニー大向こう部は2.5m以下の低天井エリアとなっている。

更に、2階バルコニーは階下席へのオーバーラップは全くない優れたデザインだが、天井すなわち階上の3階バルコニー底面が迫っており、サイドテラス最前部を除き全域が2.5m以下の低天井エリアとなっている。

現状演劇主体で、音曲(おんぎょく)鳴り物付きの出し物?は精々ミュージカル公演程度なのであまり問題にはなっていないのであろう。

そろそろ潮時かも?

南欧カタルーニャ芸術を彷彿とさせる内装そのものが、「遺産」であり手を加えるのが非常に難しい建造物でもあり「保存をの望む声」も多いであろうが、建設当時とは時代も代わり多目的芸術ホールに対するコンセプト設定もある程度絞れる様になった現在、旧京都会館同様に全面的な建て替え時期に来ているのかもしれない。

コンピュータシュミレーションなどのデザイン手法や、内装材、舞台装置等のハード面も大巾に進化を遂げた現在、可変段床アダプタブルステージ・可動プロセニアム・等の設備を駆使した新たなる「総合舞台芸術ホール」の誕生を望む次第である。

ホール音響評価点:得点72点/100点満点中
§1 定在波対策評価;得点50点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ホール床面積(or総客席数)の1/3以上に及ぶ範囲が「完全平行な垂直平面壁」で挟まれているときは 基礎点25点に減ずる。
  • ※但し、壁間距離が20m以上あり定在波周波数が可聴帯域外(20Hz以下)の場合は基礎点50点にすえおく。
  • ※また扇形段床などの座席アレンジで、実被害を回避し、被害席が生じていない場合も基礎点50点にすえおく。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点8点/配点25点
  • 木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点11点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価得点3点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

算出に用いた値;

※関連記事 「ホール音響評価法についての提案」はこちら

定在波評価

※定在波障害実被害席が皆無なので基礎点50点とした。

基礎点B1=基礎点50点ー障害発生エリア数0=50点

定在波「節」部席;0?席

定在波「腹」部席;0?席

定在波障害実被害席総計;0?席

初期反射対策評価

※障害発生エリア壁面材質が軟質窯業製品に近いアコヤガイ混入のモルタルなので素材基礎点15点とした。

基礎点B2=素材基礎点15点ー障害発生エリア数6=9点

初期反射障害1 壁面障害席 ;118席(56席/2階後列全席、62席/3階壁際席、)

初期反射障害2 天井高さ不足(2.5m以下)席;74席(50席/2階B列3~68番席、24席/3階k列全席、)

2F重複カウント ;ー50席

3F重複カウント ;ー24席

音響障害席総計;118席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数7=13点

眺望不良席数;28席/1階平土間中央部座席XB~XC列15番~28番

音響不良席その1 定在波障害顕著席 ;0席

音響不良席その2 初期反射障害1壁面障害席 ;118席

音響不良席その3 初期反射障害2 天井高さ不足(2.5m以下)席;74席

重複カウント ;ー74席

音響障害席総計;146席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

日生劇場の施設データ

※舞台仕込み図等の詳細は未公表です、使用料金、舞台設備などに関しては直接日成劇場にお問い合わせください。

  1. 所属施設/所有者 日本生命日比谷ビル/日本生命。
  2. 指定管理者/運営団体 
  3. 開館   1963年9月竣工 1963年10月20日(2016年6月改修工事竣工)
  4. 設計  村野 藤吾先生(村野・森建築事務所)
  5. ゼネコン 大林組 

ホール

  1. ホール様式 プロセニアム型式多目的ホール。
  2. 客席   最高部高さ;約14m 2スロープ3フロアー 
    • 収容人員1,334席
    • 1階A列~中央部千鳥配列、
    • 絨毯敷き詰め、
  1. 舞台設備
    • 基本仕様;2面舞台相当;幅約43ⅿ、ステージ奥行約16.5ⅿ、有効面積約709.5㎡(約428.畳)高さStl+約14mプロセニアムアーチ:間口約19.6m、高さ約9.6m、実効面積;約323.4㎡(約195畳)ブドウ棚(すのこ)高さStL+約15.6m、バトン類高
    • 付属舞台;、オーケストラピット&エプロンステージ迫り
    • 舞台設備(装置&設備);奈落、大・小迫り、道具迫り、
    • 仮設資材;花道用所作台、所作台、講演台、演台、司会者台、花台
    • 台・小道具:松羽目、竹羽目、金・銀屏風、
    • 幕装備:緞帳、浅黄幕、定式幕(ホリゾント幕、中ホリゾント幕、暗転幕)、オペラカーテン)映写スクリーン
    • コンサート対応設備;オーケストラ平台、ひな段用けこみ、指揮台/指揮者用譜面台、ピアノ椅子、コントラバス用椅子、奏者椅子(スタッキングチェアー)譜面台、

日生劇場のロケーション

ところ  千代田区有楽町1-1-1

日比谷公会堂がある日比谷公園の東正面に面し、東隣は「東京宝塚劇場」(※ホール 音響 ナビこちら)そしてお堀端を北へ200mほどたどったところには帝国劇場(※ホール 音響 ナビはこちら)東海道線の反対側には新橋演舞場(※ホール 音響 ナビはこちら)などの有名な劇場が集中しており、お江戸の舞台芸術の発信基地となっている。

トリップアドバイザーの周辺口コミガイドはこちら。

日生劇場へのアクセス

鉄道・バスなどの公共交通

地下鉄千代田線・日比谷線・都営三田線 日比谷駅、A13出口より徒歩1分
地下鉄有楽町線 有楽町駅より徒歩10分
地下鉄丸ノ内線 銀座駅より徒歩10分

マイカー利用の場合

(※周辺駐車設備(民間有料駐車場)も多いが観劇のアフターライフを楽しむには公共交通機関利用がおすすめ)

首都高速霞が関ランプより約4分/1.1km。

東京高速道路新橋ランプより約5分/1.3km

日生劇場がお得意のジャンル

新日本フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が不定期の特別演奏会を開いている。

そのた藤原歌劇団のオペラやバレエ公演、ソリストのリサイタル、アンサンブルの演奏会、小編成の室内楽コンサートなども行われミュージカル、Jポップ関係のコンサートや、往年のアイドル・エンタテイナーのワンマンショウ、ジャズコンサート、演劇・伝統芸能(大歌舞伎)などジャンルに拘らないバラエティーに富んだイベントが行われている。

日生劇場で催されるコンサート・イベントチケット情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

第2幕 逸話と豆知識

※以下公式ガイド記載・村野 藤吾先生談より引用

建物の規模は、地下5階地上8階建て建築面積3,549.13平方メートル、 建築延総面積は約42,878.78平方メートル。<中略>

劇場を単一の目的に設計すること、例えば、コンサートホールとか、演劇専門に設計するとか、ともかく一定の目的にふさわしいように設計すること<中略>...

いくらかやりやすいのであるが、わが国では多くの場合多目的に使用されるようである。

これは、劇場経営の点からやむおえないところもあると思うが、建築的には、殊に音響的には非常に困難で、成功する場合は少ないようである。<中略>

そこでこの劇場の設計に当たっては、まず使用目的をはっきり してもらうことにした。

オペラおよび演劇(歌舞伎を除く)に使用するというのであったが実は"オペラ"と"演劇"ということだけで既に非常な建築的な性格の相違である。<中略>

音響の点は石井聖光先生の指導によったもので、はじめ、音の拡散だけを考えて客席の天井も壁も曲面の多いものにし、これをそのまま建築的な表現にしたいと考えたのである。

そこで30分の1の模型を作って、実際に音響実験をしながら曲面を訂正していったのである。

壁の材料は、特製のガラスモザイクを使用し、天井は硬質の石膏に着色して、アコヤ貝を張ったのである(※2)。

劇場内部は天井に薄いコバルト、壁面には金とコバルトを配色した。

プロセニアムの幅は19.6m、高さは9.6mであり、<中略>...欲をいえば高さを9.6mよりもっと高くして、オペラ劇場としての気分を出すべきではなかったかと思うが、建物の構造上許されないので、この程度にしたのである。

舞台の巾、奥行、スノコまでの高さ等も決して充分とはいえないが、これも構造上やむを得ない。しかし舞台におけるいろいろの不満は、舞台機構を強化することによって補っていると思う。...<後略>

可動プロセニアムを日本で初めて採用した(出来た?)商業劇場が1997年竣工の大阪松竹座であり、まだ可動プロセニアム装置が未開発であった当時の固定プロセニアム方式では高さ9.6mは致し方なかったのであろう。

更に、理解があったはずのオーナー・日本生命でさえ「劇場とオペラハウス」の違いがわかっていなかった事など、当時の芸術ホールデザインに関わられた先生のご苦労が忍ばれる。

※2、天井には2万枚ものアコヤ貝の貝殻が散りばめられている。

日生劇場のこれまでの歩み

1963年10月20日にベルリン・ドイツ・オペラを招いてこけら落とし公演が行われた。

1973年11月に日本生命保険相互会社の出捐により、日生劇場を中心として『すぐれた舞台芸術を提供するとともにその向上をはかり、わが国の芸術文化の振興に寄与する』ことを事業目的として「ニッセイ児童文化振興財団」設立。

1993年11月、より広範かつ充実した活動を行うため事業活動を拡大し、「ニッセイ文化振興財団」に改称。

2009年10月 内閣総理大臣より公益認定を受け同年11月に設立登記を完了し、「公益財団法人ニッセイ文化振興財団」として再スタート。

2015年の12月から2016年の5月まで舞台機構や客席の改修工事実施。

日生劇場のオーナー日本生命保険相互会社これ迄の歩み

現在「"大切な人を想う"のいちばん近くで。」を社是としている。

1889年に株式会社として創業した日本で3番目に古い生命保険会社で戦後の1947年に

相互会社となり現在は株式会社ではない。

1996年 - 子会社としてニッセイ損害保険株式会社設立。

日本生命保険相互会社のこれまでの主立った出来事

1889年 - 前身の有限責任日本生命保険会社を創立。
1891年 - 株式会社化(日本生命保険株式会社)。
1898年 - 日本最初の契約者利益配当実施。
1942年 - 富士生命を包括移転。
1945年 - 愛国生命を包括移転。
1947年 - 日本生命保険相互会社として再発足。
1975年 - 琉球生命保険を包括移転。
1996年 - ニッセイ損害保険株式会社設立。
2001年 - 同和火災海上保険とニッセイ損害保険が合併し、ニッセイ同和損害保険設立
同和生命保険より全契約の包括移転を受け、同和生命保険は解散。
2009年 - 創業120周年。
2015年1月 - 日本生命本店東館(大阪市中央区)が竣工。
2015年12月 - 三井生命保険を傘下に収める。

 

公開:2017年9月26日
更新:2022年9月27日

投稿者:デジタヌ


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